top of page
  • Facebook
  • X
  • Instagram
  • TikTok
  • Line

お菓子の賞味期限はどう決まるのか 製菓メーカーの現場から正直に話します

  • 執筆者の写真: 山根製菓
    山根製菓
  • 14 分前
  • 読了時間: 6分

お菓子の賞味期限はどう決まるのか?

お菓子を買うとき、裏面の賞味期限をチェックする人は多い。でも「なんでこの日付なんだろう」と思ったことはあるだろうか。

実は製造側も、なんとなくで決めているわけじゃない。検査して、食べて、悩んで、ようやく一つの数字にたどり着く。今回は、山根製菓がどうやって賞味期限を設定しているか、そして「賞味期限」という概念そのものが今どう変わりつつあるかを、現場の話を交えながら書いてみたいと思います。


まず「賞味期限」と「消費期限」の話から

混同されがちなので、最初に整理しておきたい。

消費期限は「この日までに食べないと安全じゃないですよ」という期限のことで、お弁当や生菓子など、傷みやすいものに使われる。一方、賞味期限は「この日までならおいしく食べられますよ」という期限で、スナックや焼き菓子など、比較的日持ちするものに使われる。賞味期限を1日過ぎたからといって、すぐに食べられなくなるわけではない、というのも覚えておいてほしいポイントです。

山根製菓のうすば焼・KOMENOTORIKOなどは、この「賞味期限」が適用される商品にあたる。


賞味期限の決め方

検査機関に「数字で証明してもらう」

まず最初にやることは、製品サンプルを外部の食品検査機関に持ち込むことだ。時間が経つにつれて成分がどう変化するかを、きちんと数値で測ってもらうためである。

検査で確認する主な項目は、水分活性・過酸化物価・酸価・一般生菌数などだ。少し難しい言葉が並ぶが、要するに「微生物が繁殖しやすい状態になっていないか」「油脂がどれくらい酸化・劣化しているか」「カビや菌が問題のないレベルか」を数値で確かめている。これらが食品衛生法や業界基準の範囲内に収まっている期間を確認することで、「この数字なら○日は大丈夫」という根拠が生まれる。


実際に食べて確かめる「官能試験」

ただ、数値が問題なくても「でもおいしくない」では意味がない。そこで社内で行うのが官能試験——つまり、人間が実際に食べて確認する試験だ。

一定期間保管した商品を定期的に試食しながら、香りや風味が変わっていないか、食感がおかしくなっていないか、見た目に変色やカビがないかを、複数のスタッフで評価していく。「数字的には問題ない」と「食べておいしい」が両立して、初めて賞味期限として設定できる。この試験、地味に大事な工程だし、地味においしい仕事でもある。


「D+120」という答えにたどり着くまで

食品業界では、賞味期限を「D+(ディー・プラス)」という単位で管理することがある。D=製造日(Day)を起点に、何日間品質が保てるかを示す考え方で、もともとはお弁当やサンドイッチなど日持ちの短い食品でよく使われる管理用語だ。D+1なら製造翌日まで、D+30なら製造から30日間、という具合に使う。

山根製菓の焼き菓子・スナック類は、現在D+120——製造日から120日間の賞味期限を設定している。これは検査機関の試験結果と社内官能試験の両方を経て出した数字であり、感覚や慣習ではなく、根拠のある判断の結果だ。

賞味期限は「品質的に何日持つか」だけで決まるわけでもない。流通や販売の現実も、設定に大きく影響してくる。たとえば流通に1〜2週間かかるなら、消費者の手元に届いた時点でどれくらいの残日数があるかを逆算しなければならない。海外販路——たとえば香港向けに商品を出す場合、輸送・通関・店頭在庫の期間を合計すると、賞味期限の長さは販路の広がりに直結してくる。品質を守りながら、流通の現実にも対応できる期限設定。そのバランスを取った答えが、今の「D+120」だ。


今、賞味期限は「社会的に」変わろうとしている

実はここ数年、食品業界全体で賞味期限の考え方が大きく変わりつつある。背景には3つの要因がある。

ひとつ目は、食品ロス削減という社会的な要請だ。かつて日本の流通には「3分の1ルール」という慣習があった。製造から賞味期限までの期間を3等分し、最初の3分の1を過ぎたら小売店に納品できないというルールで、これが大量廃棄の温床になっていた。賞味期限を延ばすことでこの納品期限に余裕が生まれ、まだ食べられる食品が廃棄されるリスクを大きく減らせる。コスト削減の観点でも、期限を数ヶ月延ばすだけで返品・廃棄のコストが数億円単位で変わるケースもある。よく聞くニュースでは恵方巻の時期など。

ふたつ目は、科学的根拠に基づく「安全係数」の見直しだ。賞味期限は「科学的に算出した最大可食期間」に安全係数(一般に0.8など)を掛けて算出される。近年、消費者庁のガイドラインが約20年ぶりに改正され、「過剰に短くせず、より1に近い適切な係数を設定する」ことが推奨されるようになった。検査精度の向上も追い風で、品質がどの程度の期間保たれるかを、以前より高い解像度で証明できるようになっている。

みっつ目は、保存・包装技術の進化だ。酸素や水分を通さない高バリア包装や窒素充填技術の向上により、酸化による味の劣化を長期間防げるようになった。製造工程の無菌化も進み、保存料に頼らずとも鮮度を維持できる製品が増えている。

また最近では、「2026.03.15」といった日付単位ではなく「2026.03」という月単位で賞味期限を表示する食品も増えてきた。日付単位だと「1日でも新しいものを」という過剰な鮮度志向が生まれやすいが、月単位にすることで在庫管理が効率化され、物流の負荷軽減にもつながっている。


面白い話で談志師匠が言っていたこと

少し脱線するが、落語家・立川談志師匠の話を紹介したい。

談志師匠は、賞味期限切れの食材を弟子に食べさせることで有名だった。「まだ食えるかどうかは、自分の鼻と舌で判断しろ」という教育でもあったらしい。逆に、自分が食べてみて平気なら期限が大幅に過ぎていても「これはまだいける」と断じる——数値よりも自分の五感を信じる、徹底したリアリストだった。

師匠はまた、「腐りかけが一番旨い」という持論も持っていた。果物でも魚でも、本当に旨いのは腐る直前、アミノ酸が分解されて成分が変化した瞬間だと。そして、カレンダーの数字に縛られて自分の感覚で「旨い・不気味・危険」を判断できなくなった現代人を「家畜化されている」と皮肉るのが談志節だった。

晩年、喉のがんを患い死を意識した師匠は、自分自身の命を「賞味期限」に例えて語ることがあったという。「立川談志という商品の賞味期限が切れた」——食べ物の話が、いつの間にか人間の引き際という深い人生論にすり替わっている。それが談志師匠らしさだったのだろう。

おわりに

袋の裏に小さく印字された賞味期限の数字には、検査機関での試験と、社内での試食と、流通の現実を踏まえた計算が詰まっている。そしてその数字は今、食品ロスや技術の進歩、社会のルール変化によって、静かに、確実に変わりつつある。

「なんとなく半年」ではなく、積み重ねた根拠がある。でも同時に、数字だけが食べ物の価値を決めるわけでもない。

皆さんも今一度、「おいしさ」とは何かを考えてみてはいかがでしょうか。


                            山根製菓株式会社 山根昌浩

bottom of page